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 五十肩

 


<これまでの五十肩治療>
西洋医学では、五十肩を「肩関節周囲炎」と呼びます。腰痛、肩こり、坐骨神経痛とともに、鍼灸院では多い病気です。腕が上がらない、腕を回そうとすると腕が痛む、腕の痛みで夜中目が覚めてしまう。このような症状があり、統計によると全人口の2%の人がかかるそうです。40代50代に絞ればおそらく20%くらいの人がかかっているのではないでしょうか。歴史も長く、人間が出てきたときからある病気です。しかし、これまで、どうしてなるのか、はっきりした原因がわからず、西洋医学でも東洋医学でも決定的な治療法がない病気だったのです。
<五十肩の原因>
五十肩という名前がついていますが、肩ではなく腕に症状があらわれます。患者さまに伺うと、突然腕が上がらなくなったと言われます。症状として現われるのは突然ですが、必ずその準備期間があり、体がもう耐えられなくなって症状として現われるのです。ギックリ腰も同じで、突然ギクッときて動けなくなるのではなく、準備期間として、腰の奥の筋肉が硬くなっている状態(マヒ、拘縮)があり、その状態のときに腰を動かすと、表面の筋肉が『ねんざ』を起こすのです。五十肩は、腕がスムーズに動きません。腕を動かそうとすると、ある位置で腕がひっかかり、痛みがでて、動かせなくなります。人間が動作をするときは、まず奥の支える筋肉(深層筋・インナーマッスル)<囲み記事参照>が動き、次に表面の筋肉(表層筋)<囲み記事参照>が動くのです。それでスムーズな動きが生まれます。五十肩もギックリ腰も、『奥の筋肉や腱がマヒ』していて、スムーズな動きが出来なくなり、無理に動かそうとすると表面の筋肉が損傷して痛むのです。五十肩とギックリ腰は同じ原因で起こるのです。ということは、治し方も同じだということです。
<五十肩の診断>
肩こりと五十肩のちがいは、肩こりでは腕の異常は出ませんが、五十肩では腕に症状が現われるところです。まず、腕をどのようにするとどこが痛むか(痛みの場所)、どこまで動くか(可動域)を調べます。五十肩の場合、腕を前から上に上げる(つり革を持つ等)、横に水平に上げる(くしで髪をとかす等)、腕を後ろに回す(くしで髪をとかす等)、この3つの動きが正常に出来なくなり痛みも起こります。治療では、痛むところに印をつけ、可動域の角度を測ります。また、急性か急性でないかを知る問診として、「夜間痛みがあるか、痛みで目が覚めてしまうか」「じっとしていても痛むか(自発痛の有無)」を聞きます。夜間痛や自発痛があれば、腕・肩関節に炎症があり、急性であることを意味します。
<五十肩の治療>
治療は、「痛みの軽減」と「可動域の改善」を目的とします。

A/五十肩の根本治療、固くなっている腱のマヒをとる
肩の大元の原因は、腕の奥の腱。腕を支えている筋・腱、腕を動かす最初に使われる筋・腱が固くなってマヒ(拘縮)していることです。ですから五十肩の根本治療は、固くなっている腱のマヒを取り、ゆるめることです。麻痺している個所をみつけるには、温熱器をあてて、アチチ反応が出る点を見つけるのがいちばん簡単です。アチチ反応が出る点の奥の腱がマヒして固くなっています。目安としては、肩峰関隙点(結節)、腱板点(肩貞)などです。そのマヒしているところの中心に鍼を入れて<囲み記事参照>、マヒをとっていきます。マヒしている場所まで届くには、長い鍼が必要です。あるいはアチチ反応をマヒしているところに注熱してマヒを回復させます。

B/急性の場合はねんざと同じように治療をする
腕を動かす筋肉・腱がねんざのときと同じような状態になっています。ねんざすると、ねんざした腱が腫れて熱をもち、痛みます。五十肩の場合は、肩の奥にある上腕二頭筋(力こぶを作る筋肉)や、肩甲骨と腕をつないでいる棘下筋、棘上筋などの筋肉が骨についているところ(硬くて腱になっている)がやられていて、ねんざと同じような状態になっています。急性で炎症があるとき、すなわち夜間痛や自発痛があるときは、奥の腱が腫れて痛んでいる状態なので、悪いところに直接治療は行わず、反射療法を行います。五十肩の原因の項で説明したように、奥の腕を支えている腱(肩や肩甲骨についているところ)がかたくなってマヒ(拘縮)した状態が準備期間としてあって、それでも負担をかけていると、腕を動かす筋肉がねんざ状態になって損傷してしまい、炎症を起こして腫れ・痛み・熱感が起こります。じっとしていても痛む、夜間痛むときは、炎症がある状態です。初期のギックリ腰やねんざの治療をするとき、炎症のある場所には直接触れずに、その場所と相関する部位を治療します。ギックリ腰の場合は頭(百会)や胸、ヒザ裏にあるツボを使います。足首ねんざのときには手首のツボを使って反射を起こして遠隔治療を行います。

C/股関節などのツボをつかって反射を起こす
反射とはリフレクソロジーと同じで、悪いところは触らずに、遠隔部位から治療をすることです。その刺激が悪いところに伝わり、悪いところを治す、東洋医学の療法です。肩関節と関係するのは股関節です。大転子(大腿部の横、気をつけの姿勢で手が触る骨)の周りの腱、あるいは大腿筋膜張筋の腱を指圧、あるいは鍼・温熱を使って腱反射を起こすと、腕の可動域が改善され、痛みもらくになります。これはホロ指圧による治療法です。

D/肩こり、首コリを治療する
腕の奥の腱がマヒ(拘縮)すると、首・肩こりも生じる。腕が思うように動かないのだから、当然腕の付け根にある肩、続いている首もこります。首、肩に温熱器をあてて、アチチ反応のあるところがツボです。アチチ反応があるところに温熱や鍼をして、コリをゆるめるのが手っ取り早い。温熱器がないときは、肩のコリに指圧・鍼をして、コリをほぐします。五十肩の場合、首のこりが現われるのは、胸鎖乳突筋、その奥の斜角筋です。すなわち首の横にコリが現われますから、患者さまを横向きにして付着部(エイ風)や肩井付近のコリを緩めます。肩、首のコリがゆるむと、腕の上げがらくになります。最近は、パソコンからくる首、肩のこりが腕にも影響を与えて、五十肩の原因になっているケースも多いようです。
<マヒがとれると症状が変わる>
このようにしてマヒをとっていくと、その場で上がらなかった腕が上がり、回らなかった腕が回り、夜痛くて眠れなかったのが、痛みが取れて眠れるようになります。治療後もとに戻ってしまうこともありません。
<温熱器による五十肩の治療> 
 最近(平成21年4月)温熱器による治療は、鍼に勝るとも劣らないのではと思えるようになりました。平成21年4月までは、奥のマヒしているコリには温熱は届かないと思っていたのですが、届かせる方法がわかってきたのです。

温熱器をここに書いてあるツボにあてると、熱くて飛び上がるような「アチチ反応」が出てきます。身をよじるほどの、熱いというより、鍼で刺すような痛みのある感覚です。アチチ反応を何回かだしていると、そのうち身をよじるほど熱かったアチチが軽減していきます。すると、そこに現れていたコリの痛みが軽くなっています。コリが軽くなると、動きや痛みの感じも改善してくるのです。

深部のマヒ(拘縮)しているコリに対して注熱し続けて、そのコリに熱が届くと「アチチ反応」がでて、コリが浮いてきます。そのコリにもう少し注熱しているとコリがゆるんできます。このような治療を何日間か行っていくと奥のマヒがとれていくのがわかってきました。

コリの部分が熱を持って炎症があるときは、温熱をやらないほうが良い場合もありますが、炎症が無い時は、アチチ反応を出すことによって、よくなっていくのも事実です。

温熱器は家庭で、自分でも使えるので改善は少しずつでも毎日行えるので、治療院で行う治療と併用すれば早くよくなります。

ですから治療院で温熱治療をやってもらってどこに「アチチ反応」が出るかがわかったら、その部分を中心にして、自分でも行えば良いのです。
温熱器による五十肩治療は有効です。
<五十肩の経過と自分でできる家庭療法>
A/自発痛・夜間痛があるときは無理に動かさないで、股関節のストレッチ、散歩をする
五十肩にはじっとしていて痛む(自発痛)夜寝ていると痛みで起きてしまう、痛くて眠れない(夜間痛)という、「腕を動かさなくても痛みが出る時期」があります。この時は、肩関節の中に炎症がある状態です。簡単に言うと、ねんざをした直後と同じ状態です。ねんざをすると関節が熱をもち、腫れて痛みます。肩関節の中で、腱がこのような状態になっているのです。ねんざをしたときは、腫れがひくまで無理に足首は動かしませんよね。五十肩の場合も自発痛、夜間痛があるときは、痛みを我慢して無理に腕を動かしてはいけません。よけいひどくなるだけです。寝るときは抱き枕などを使って、腕が変に動かないようにします。ゴルフはNG。高いところの物を取るときなども注意して下さい。ねんざと五十肩がちがうのは、ねんざは表面から触れられる腱をやられているのですが、五十肩の場合は表面から触れられない奥の腱がやられています。ですから表面からは熱や腫れは感じないかもしれませんが、奥(3〜4センチ深部)の腱は、腫れて熱を持ち痛みを出してきます。自発痛、夜間痛があるときは、無理に腕を動かすのは禁止です。肩関節と股関節は相関していますから、肩関節を遠隔で治すには、股関節をストレッチすることです。もしできるなら、股関節のツボをすりこぎ棒のようなもので押して、反射を起こすと、炎症が早くおさまります(写真参照)。また散歩は、股関節と肩関節をリズミカルに動かすことができるので、有効です。軽く腕をふって(痛くない程度で)歩くと、肩こりがとれます。そのため股関節のストレッチ、散歩はどの時期でも有効です。

B/自発痛、夜間痛がなくなったら、温熱器やおふろで温める
自発痛、夜間痛がおさまったら、炎症はとれたということです。ねんざの場合で言うと、腫れがとれた状態です。こうなったら、今度は温めて、血流をよくして、痛みがない範囲で腕を動かしましょう。この段階で早くよくなろうとして、痛いのを我慢して無理に動かしたりすると、また炎症を起こしてしまうので気をつけてください。少しおさまったからといって痛みを我慢してゴルフなどすると、後で痛みがひどくなります。ほどほどにしてください。また無意識に、上のものを取ろうとして腕を伸ばしたりするとき、ズキッと痛み、ひどくなることがあるので無理はいけません。おふろで温めると痛みが緩和されるので、おふろはいいですね。ただし、おふろに入って温めたから、散歩したから、それで五十肩が治るわけではありません。ひどくならない、治るのを早めるという効果があるのです。最近、どんな患者様にも使っているのがハンディ温熱器による温熱治療です。五十肩の治療にももちろん使っていて、重宝しています。温熱器はハンドアイロンのようなもので、温める器具ですが、熱と一緒に遠赤外線がでているので、4〜5センチおくまであたたまり、しかも老廃物が静脈に吸収される働きがあります。五十肩の場合、悪くなっているのは奥の腱なので、
遠赤外線の効果で奥の悪いところまで熱が届き、血流が良くなります。また悪いところは熱く感じる「アチチ反応」が起こるので、そこに注熱し、アチチ反応が弱まってきたら筋肉が柔らかくなり、コリがとれてゆきます。腕の動きもよくなります。自宅でつづけていただけると、肩関節の血流もよくなり、治る力(自然治癒力)が高まり、早くよくなります。もちろん五十肩以外にも肩こりや腰痛、冷え性、内臓病、ガンなどのあらゆる病症に有効なので、健康増進にも使っていただけます。

C/腕をふる
炎症の取れた時期には、腕を意識的にふって散歩しましょう。よく五十肩の運動法として、アイロン体操というのがあります。アイロンを持って手をふる運動です。アイロンの重みでふりこのように腕に力を入れずに振れるので、肩関節の悪い腱には負担がかからず腕を動かせるので、これも有効です。アイロンの代わりに、1リットルのペットボトルに水を入れて振ってもいいです。家庭療法は五十肩の治癒を促進します。ただし、短期間で五十肩を治そうとしたら、五十肩の大元である、肩関節の奥の腱のマヒを温熱や鍼治療などで治すのが一番です。
<最後に>
有史以前より、人類について回ってきた五十肩の、即効性がある治療法を、誰もつくってこなかったということが不思議なことです。もしかして、誰かがつくっていたのかもしれませんが、その治療法は普及しなかったようです。私に五十肩の治療法が授かったことは、たいへんありがたいことです。そんなに難しい治療法ではないので、これからこの治療法を「KT式五十肩療法」と名づけ、広く普及し、五十肩で悩んでいる全世界の人々のお役に立てればと思っています。
専門家のための囲み記事
T/腱とは
私は腱の治療の専門家です。腰痛の治療も同じです。ギックリ腰や慢性の腰痛の場合でも、腰痛を起こしている真の原因は、深さ7〜10センチ奥にある、大腰筋という、腰を支えている筋のマヒです。その麻痺している中心に2寸(8センチほど)のハリを入れ、硬くなってマヒしているところをやわらかくしてやると、腰痛が治っていきます。筋肉、腱はバネと同じです。バネは重さをのせると伸びますが、またもとにもどります。しかし、バネが戻らないほどの重さがかかってしまうと伸びっぱなしになったり、縮みっぱなしになり、バネの働きができなくなります。筋肉・腱が働かなくなると、その場所に異常症状が起こります。

U/表層筋と深層筋(インナーマッスル)
もうひとつ知っておかないといけないのは、筋肉・腱には「1動かすための筋肉・腱」と「2支えるための筋肉・腱」があるということです。動きの筋肉・腱は表面にあります(表層筋)。支えるための筋肉・腱は奥にあります(深層筋)。表層筋が壊れると、痛みが起き、動きに異常がでます。表層筋は、炎症を起こしやすいのですが、表層にあるので悪い部分がわかりやすく、治療がしやすい。だからわりに早く治ります。一方深層筋は、3〜10センチ奥になるので、傷めた部位が表面からは直接触れにくいし、奥にあるので治療がはいりにくいのです。それに表層筋に比べて、炎症は起こしにくく、傷めるとマヒするのが特徴です。マヒするとは、専門用語では拘縮といいます。簡単にいえば、筋肉・腱というバネがちぢんで硬くなって元に戻らなくなっている状態です。一方炎症とは、腫れて熱があるような状態です。ねんざのケースを想像するとわかると思います。筋肉・腱が損傷(こわれる)すると、そこを治そうとして血液が集まってきます。その状態が腫れ・熱感、痛みという症状であらわれます。

V/鍼は指の代わりであり、筋肉の内視鏡
私の鍼に対する考え方は、「鍼は指の代わりであり、筋肉の内視鏡」というものです。患者様にはこう説明しています。「指では表面からしか奥が分かりませんが、針は指の代わりとして、奥にある悪い個所を直接触ることが出来ます。私には鍼を刺すという発想はありません。鍼は観るものです。筋肉の中に直接入れて、内視鏡と同じように針先で筋肉、腱の状態を観ることが出来ます。そして針先で悪い個所を治療することが出来ます。鍼は筋肉、腱の内視鏡です」。

W/鍼でどのようにマヒ(拘縮)部を治療するのか
マヒしている腱は、硬くなっています。そして表面には痛みが現われる場合も多くあります。腕を動かしてもらうと、痛くてそれ以上動かないところがあります。いわゆるひっかかっている部分です。そのひっかかる点、かたくなっている部位、痛い部位がツボです。その部位(面)の中心をさぐって(このやり方は文章では伝わりにくいかもしれません)、面を点にして、鍼のツボを決めます。ここでうまくポイントを探らないと、鍼をしてもほとんど変化が起らなかったり、痛みが余計に出てくることがあります。そのツボに鍼を入れ、針先でマヒしている部分まで届けます。そして針先を使ってマヒをとっていきます。マヒしているときは鍼をしても何も感じませんが、マヒがとれていくと、感覚が戻ってきて、鍼のヒビキを感じるようになります。ヒビキは、マヒ(拘縮)が回復してきたサインです。ヒビキが出てきたら、そのマヒ部は良くなっています。長年にわたってつくられたマヒは、樹木の年輪のように層をなして硬くなっていますから、一層一層マヒをとっていきます。
 

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